【NY Times 報道】スリランカ経済「どん底」に、大統領にプレッシャー 〜 2022年3月25日

・レンズ豆とご飯とミルクなしの紅茶だけ。ある家庭の食事はますます質素になっている。調理用ガスが手に入らず電気も止まり、母親は屋外で薪を使って最低限の食事を作っている。
 自宅は2階建だが、階段はコンクリートの価格が高すぎて作れない。
「家を建てるのは大変。でも食べることはもっと大変」。

・経済危機は島国スリランカ全国の生活を破壊している。
 2009年の内戦終結から10年足らずで立ち直り、上位中所得国まで上り詰めた。観光業を基盤に経済を構築し、何十億米ドルの資金と雇用を生み出し、高級レストランやカフェ、高級輸入自動車、高級モールなど中流階級の快適な生活を実現した。
 今、スリランカの人々はただ明かりを灯し続けることを望む。莫大な債務とコロナ危機、最近のウクライナ紛争により、それを失った。

・中央銀行はルピーを刷り、2月のインフレ率は過去最高の17.5%に達した。
 財務大臣は近隣諸国に、燃料や粉ミルクを買うためのクレジットラインを懇願している。イランとは物々交換で、石油代金を紅茶で支払っている。
 政府は、数か月にわたって計画停電を続けている。首都コロンボの一角は突然暗くなり、街路はインド洋と同じように真っ黒になった。
・コロンボの政策シンクタンクの創設者は、
「本当にどん底に落ちた。状況はさらに悪化する。いつ本当のクラッシュが来るかと考えている」と述べる。

・ゴタバヤ・ラージャパクサ大統領は、勝利した2019年の選挙で、250人以上が死亡した連続爆破テロ事件の直後に国の安全を回復するとの戦略で選挙運動をした。ラージャパクサ一族はスリランカ人なら誰でも知っており、選挙戦に知名度は必要はなかった。
・大統領に就任後、反対派や反体制派を投獄、強権的との評判を高めた。
 しかしその政権下で経済が悪化し、大統領への圧力は高まっている。
・紙の不足で学校の試験は延期された。食料がないためにインドにボートで渡った北部の亡命者はインドの沿岸警備隊に救助された。灼熱のなか燃料を求める長い行列に並んだ男性2人が死亡した。
 物資供給の不足は、今月初めにここ数年で最大のデモを引き起こし、続く停電に抗議するキャンドルデモも発生した。
 元軍人の大統領は、国民の不安を鎮めるためにガソリンスタンドに軍隊を配備している。

ロシアのウクライナ侵攻と中国でのコロナ危機の再燃がサプライチェーンを混乱させ、世界的に商品コストを押し上げた。
 しかしスリランカでは、これらの外的混乱は、何年も前からあった問題を悪化させただけ。
・2005年〜15年のマヒンダ・ラージャパクサ大統領時代、スリランカは巨額の債務を負って港湾など野心的インフラプロジェクトを建設し、シンガポールを目指した。しかし、これらのプロジェクトの多くは期待した民間投資を呼び込むことができず、停滞している。
・続いたシリセーナ前政権は、このために高利の負債を背負った。同政権は、割高な短期借入金を安価な長期借入金に切り替え、外貨準備高も75億米ドル程度まで積み上げた。スリランカは52年ぶりに財政黒字となった。
・そしてゴタバヤ・ラージャパクサが政権を取り、コロナ危機直前に大幅な減税を実施した。現在、スリランカは史上初めて対外資産がマイナスとなり、国債の利回りは7%から16%に急騰している。
・国民は米ドルを入手できず、ルピーの急速な切下げへのヘッジが困難。食料品や燃料などの必需品は、入手ができないか、法外な値段で売られている。

・インドが15億米ドルの融資枠を与え、中国は25億米ドルの融資枠を検討している。貧しい隣国、バングラデシュにも融資枠を求めている。
必需品が、燃料も医薬品も食料も絶望的に不足している。
 有機農業栽培を拡大して輸入を減らす計画が失敗し、農家は生育期に肥料が不足、主食のコメが不足した。中国はコメ100万トンを寄付し、ミャンマーから高値でコメを購入する。
・政府は国外の大使館を閉鎖し、優良不動産への投資を募り、計画停電を行い、国民が銀行に預ける米ドルをスリランカルピーに換えている。

・しかし、大統領と弟の財務大臣が進めるこれらの応急処置は、中国他に負っている債務の山を満たすには程遠い。
・シンクタンク Advocata Institute トップは、
「スリランカ経済は多臓器不全に陥り、敗血症に陥っている」と述べる。
 格付け機関はスリランカの債務を格下げし、投資家はデフォルトに賭けている。

・政府は、格付け会社に対して、憤りと不信、否定を織り交ぜて反論し、国際通貨基金(IMF) への支援要請に抵抗し続けてきた。
 しかし今月初め、財務大臣はIMFと協力すると明らかにし、譲歩した。
・カブラール中央銀行総裁は
「困難は観光収入を失ったためであり、観光収入があれば誰もIMFを話題にすることはなかった」と述べ、観光収入の大幅回復による国のバランスシート正常化に賭けている。
政府の信用力低下により、石油やガスの購入レートはスポット価格、つまりコンテナ船入港時のレートになった。最近では、コロンボ郊外に停泊中のタンカーは、軽油貨物の価格を3,500万米ドルから5,000万米ドルに引き上げた。

・経済的痛みが強まるにつれ、反政権の政治家たちは好機を感じ取っている。
 今月初め、野党 SJB はコロンボで大規模デモを開催、数万人のデモ参加者が大統領の辞任を要求した。
 これとは別のデモでは、大統領官邸まで行進し、停電、ガスや粉ミルクの不足、食料品価格上昇に抗議した。
「生活がとても苦しい」

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